月の記録 第46話


ブリタニアが戦艦を目指したのに合わせ、各国もまた戦艦を目指すような動きを見せた。その動きは協力というよりは監視。または、背後から奇襲をかけようとする敵そのものの姿だった。当然か。侵略戦争を行い、多くの国を手にしたブリタニアを、この機会に打ち倒そうと考えても何もおかしくはない。そして今、KMF部隊を率いたこの旗艦アヴァロンには、閃光のマリアンヌと恐れられた皇妃、ブリタニアの魔女、あるいは戦女神と呼ばれているコーネリア、そして宰相であるシュナイゼルと、ブリタニアの上層部の者が三人も乗艦しているのだ。
自国の首脳を取り戻し、テロリストを殲滅後、この三人を抑える事が出来ればブリタニアを手に入れたも同然となる。世界の1/4を手に入れる事が出来るのだ。
そんな各国の思惑など見越したうえで、アヴァロンは戦艦と対峙する位置についた。
各国のKMFと戦艦・戦闘機もまた、テロリストの戦艦を囲むような形で展開されていく。共闘といえば聞こえはいいが、碌なやり取りも無く、各国が独自の判断で展開しているこの戦線は、こちらにとっては迷惑としか言いようがない。ハドロン砲を撃とうにも、どこかの国の部隊が必ず射程内に入ってしまうのだ。
だが、どけろと言ってどく国はいない。
テロリストから各国首脳を救いだせば、その時点でその国は英雄だ。責任は取りたくないが、英雄と呼ばれたい。そんな思惑もあるものだから、各国は自分たちに都合のいい場所から離れない。とはいえ、迷惑な状況を放置し続けるブリタニアではない。同士討ち少しでも減らし、有利な状態とするため、シュナイゼルは共闘出来そうな国と連絡を取り、少しずつではあるが、協力体制が整い始めていた。
いくつかの国が賛同し連携が取れれば、他の国も同調するしか無い。非協力的な国のせいで作戦が進まない、被害が出たと責任を取らされたくはないから。

ブリタニアが対峙してから3時間。
次々と集まる各国の部隊に取り囲まれ、空も海もすでに逃げ場はなく、テロリストたちが取るべき道は自爆か、投降か、全面戦争かという場面になっても、テロリストたちは沈黙を続けた。
そんな中突如入った緊急通信。
その相手はペンドラゴンで皇帝の護衛をしているモニカから。
嫌な予感に冷たい汗が流れるのを感じながら、マリアンヌは通信に出た。
そこでもたらされた内容に、マリアンヌだけでは無い、そこにいたシュナイゼル、そしてコーネリアも声を無くし、顔色を青ざめさせた。

「シャルルが・・・陛下が撃たれたですって?」
「一体どういう事だ!!インペリアルガードであるお前がいながらなぜ!!」

ナイトオブトゥエルブであるモニカは、シャルルのインペリアルガードだ。その彼女が傍にいながら、皇帝シャルルは何者かの手により銃撃され、今生死の境をさまよっているという。モニターの向こうのモニカは、今にも倒れそうな青白い顔で、申し訳ありませんと頭を下げている。その体が震えており、彼女自身いまだ混乱していることがうかがえた。

「答えろ!!」

激昂するコーネリアの声に、モニカはびくりと体をふるわせた後、顔を歪めた。今までどうにか保っていた理性が切れたかのか、その両目から堰を切って涙がこぼれ、声をあげて泣き出した。

「モニカ!しっかりしなさい!貴方はラウンズなのよ!!」

モニカがこれほど動揺し、人前で涙を流すなど今まで見た事が無い。どれほど辛く理不尽な目にあっても、彼女の瞳が濡れることなど無かった。それほど彼女を動揺させる事態が起きたのだ。
一体何が?いまだ叱責するコーネリアを制止し、一度通信を遮断した。
こんなモニカの姿を見続ければ、周りは更に不安になるだけだ。
命じて答えられる内容であるなら、モニカはとっくに応えている。もしかしたら、彼女たちの予想がいな出来事が起きたのかもしれない。
シュナイゼルの顔からも余裕は消え去り、モニカ以外から情報を得ようと、カノンを通じ部下たちに命令を下していた。
そうして得た情報に、愕然とすることになる。

「・・・マリアンヌ様。父上だけではありません、ビスマルク、そしてインペリアルガードのおよそ半数が銃撃により重症となっております。・・・そして、その犯人は依然不明だという事です」
「・・・不明、ですって?どういう事なの!?」
「解りません。その場にいて、被害を免れた・・・モニカを始めとするインペリアルガードと、宮殿を護る兵士達は誰一人として犯人を見ていないのです」

誰も見ていない。
突然聞こえた銃声に驚き、周りを見た時には既に終わった後だった。
皇帝の体は血に染まり、ビスマルクもまた撃たれ膝をついていた。
そして、謁見の間の広い床の上には、襲撃に使われたとみられる銃火器が残されていたという。武器を残し、犯人は煙のごとく姿を消したのだ。あり得ない状況に、モニカだけでは無い、そこに居合わせた全員が、悲鳴を上げた。

「見ていない!?兄上、そんな馬鹿な事が!!」
「防犯カメラの映像を見せて。謁見の間には4台設置されているわ、必ず何か映っているはずよ」
「調べましたが、残念ながら敵のハッキングを受けていたようです」

カメラはすべてコンピューターに接続されている。
そこの映像はカメラ本体ではなく、通信回線を通し皇宮内警備室にまとめて保管される。その警備室が敵の手に渡っていたのだ。記録など、一切残っていなかった。
鮮やかすぎる手口に、シュナイゼルの顔から余裕は消えていた。

「幸いというべきか、まだ予断は許しませんが、父上たちは全員命を取り留めましたが・・・」
「まだ何かあるの?」

情報があるならさっさと出しなさいと、マリアンヌはせかした。

「父上は意識を失われる前に、今この時を持って、ナナリーを第99代皇帝にと言われたようです」

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